新着情報
ノイロトロピンには、脳内の脳由来神経栄養因子(BDNF)を増加させ、脳卒中後の脳梗塞の進行を抑制する作用があることがマウスにおいて示されました。 -2013年11月11日、米国神経科学会・第43回年次総会にて発表-
独立行政法人 国立循環器病研究センター研究所 疾患分子(神経・脳外科)研究室 柳本広二研究グループにより、ノイロトロピンがマウスにおいて脳内BDNFを増加させ、脳卒中後の脳梗塞の進行を抑制することが示されました。この研究成果は、2013年11月9-13日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催されたNeuroscience 2013‐米国神経科学会・第43回年次総会ポスターセッションにて発表されました。
- YANAMOTO, D. YANG, Y. NAKAJO, K. IIHARA, H. KATAOKA. Neurotropin, an analgesic drug elevates BDNF levels in the brain and prevents the development of cerebral infarction in mice. Program No. 339.05. 2013 Neuroscience Meeting Planner. San Diego, CA: Society of Neuroscience, 2013. Online
鎮痛薬ノイロトロピンはマウスにおいて脳内BDNFレベルを増加させ、脳梗塞進行を抑制する
----要旨----
【背景および目的】
局所脳虚血から神経細胞を保護する安全な化合物の開発は、脳梗塞のリスクをもつ人口が年々増え続けているため、緊急に必要である。医療現場において慢性疼痛の治療に使われているワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出物(ERV, ノイロトロピン®)は、最近、培養神経細胞において脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を増強することが見出された。BDNFレベルの上昇は脳を保護すると考えられるため、虚血性脳卒中後の脳梗塞の進行および脳内のBDNFレベルの変化に対するERVの作用を調べた。
【方法】
C57BL/6Jマウスに0.27, 0.53, 0.80 U/kg/day用量のERV又は対照液を3週間にわたり経口投与した後、三血管閉塞法により一過性局所脳虚血を誘導した。一過性虚血前、虚血中、虚血終了後に局所脳血流(rCBF)レベルを測定し、脳梗塞体積、脳浮腫、神経症状(ND)を虚血終了1又は7日後に測定した。予防的投薬終了時に脳内BDNFレベルをELISA法で定量した。
【結果】
虚血中および再灌流直後のrCBF値に有意な差異は認められなかった。梗塞領域体積は虚血終了24時間後、対照群と比較して低用量のERV投与群で有意に低下した(21.6 ± 4.2 mm3, 13.9 ± 4.6 mm3, 平均値±標準偏差, p<0.001, t-test)。NDスコアも対照群と比較してERV投与群で統計学的に低値であった(p<0.05, Mann-Whitney Test)。この急性期の試験結果から脳保護を示す至適濃度は低用量の方であることがわかった。一過性局所脳虚血後の慢性期においても、梗塞領域の体積は対照群と比較してERV群で有意に低下した(22.6 ± 5.3 mm3, 15.9 ± 2.4 mm3, p<0.01)。ERV投薬終了時に一過性虚血を誘導しない際における前脳でのBDNFレベルは、対照群に比べ有意に高かった(p<0.001)。
【結論】
ヒトでの慢性疼痛の治療に用いられる用量(0.27 U/kg)での長期間の予防的なERVの連日経口投与は、脳内BDNFレベルを上昇させ、虚血性脳卒中後の脳梗塞の進行を抑制することが見出された。